Scrap Book of District 11

備忘録とか

室生犀星『或る少女の死まで 他二篇』読了

 

室生犀星も『或る少女の死まで』を読み終えました。

室生犀星は名前と詩人であるということだけは聞いたことがありましたが、作品は読んだことがなかったため、本書を古本屋で見つけた際に手に取ってみました。
後で知った話ですが、『蜜のあはれ』を書いた人なんですね。

以下、感想です。

 

血気盛んで喧嘩っ早いけれど、それに後ろめたさを感じていたり一人の時は泣いていたりと、二面性のある主人公(室生)というか繊細な心の持ち主というか…というのが全体を通しての印象でした。

幼い頃に実の母親と生き別れ、以降、女性の誰かしらに母性…というか、心の拠り所を求めているような、そういうふうにも捉えられました。
姉から始まり、終盤は或る少女(ふじ子)に心の支えにしていた室生は、母の影を彼女らに求めていたのか、そう感じることも多々ありました。

詩人であるせいか、文章がとても詩的でシンプルであるにも関わらず読みやすかったです。
作中で気に入った文章は以下です。

創作はーー主として詩の精神に没頭することは、苦しいながら一つの幸福であった。なにごともこの内にあっては、他からそこなわれるものがなかった。自由な空気はあたらしい私の生命をよびさまさせた。(179ページ)

(様々な作家の困窮や苦難を並べて)そうした先人の道程を考えるとき、私はかえって指してゆくところに明るみ光り望み生命(生命)を感じた。まだ来ない幸福や喜びや芸術の出生やを、私はあたかも一つの山岳を前方に凝視するような心持ちで、それに近づくために忍ばなければならないもの一つ一つに、耐えゆかねばならないと感じた。(196ページ)

創作人の性分か、こういった文に驚いたり励まされることが多い気がします。

どこか寂しげな室生の回顧は、亡き友や戻ってこない日々を追悼しているような、そんな小説でした。

 

今年は18冊読んだようです。次は、志賀直哉の随筆集を読もうと思います。
それが終わったら、『蜜のあはれ』を読むのもいいですね。